日本・米国・欧州・中国など、世界の主要国・地域の最新経済予測
東日本大震災は、日本はもちろん、世界にも影響を与えていることが統計上表れてきた。米国で4月の輸送機械の生産が大きく落ち込んだ他、中国は日本からの輸入の伸びが大幅に鈍化した。日本の製造工業予測調査によると、5月、6月と生産はV字回復する見込みである。しかし、輸送機械関係は6月時点でも震災前の2月水準の8割に届かず、正常化は晩秋に入る見込みの他、個人消費関連の非製造業の回復にも時間がかかりそうだ。
当面の最大の課題は今夏の電力ひっ迫である。さまざまなピークシフト対策や省エネ機器導入などで、政府目標▲15%の節電対応を急いでいる。しかし、そうした対応は経済活動を停滞させ、実質GDPを年率0.8%程度押し下げる見込みである。さらに原発事故対策の進捗如何では、今後の経済停滞が長引く可能性もなしとしない。政治が混乱を続ける中、年後半の復旧から復興に向けた動きは細かく見ていく必要がある。
こうした中、世界経済は、昨年まで金融危機から回復基調を辿ってきたが、ここへ来て減速傾向が出てきた。緩慢な雇用回復が続く米国、欧州、日本などの先進国と、景気が過熱する程の高成長が続く新興国との、いわば「二極化した回復(Two Speed Recovery)」でこれまできた。しかし、その間グローバル不均衡是正は停滞し、景気過熱から資源価格は騰勢を強め、ついにスピード調整に入った。まさに世界経済の持続性が問われている。
これは、新興国の自国通貨安誘導による強い輸出指向政策がもたらした側面が強い。新興国が自国通貨高を容認することが望ましいが、実際には主に金融引き締めで対応している。標準シナリオでは、新興国経済は巡航速度に軟着陸(中国経済は10年10.3%から11年8.9%に減速)していくと今回はみるが、引き締め過ぎれば急減速のリスクも。
米国は11年成長率を2.6%へ前回予測(2.8%)から下方修正。景気刺激策のはく落期に入る中で、雇用回復は緩慢で住宅価格も二番底をつけるなど、民間需要は弱い。減速は、エネルギー価格上昇のほか、洪水や竜巻、日本の震災など一時的要因もある。今回は景気の腰折れはない見込みだが、リスクは、連邦政府債務残高上限引き上げをめぐる与野党の対立にあり、最悪の場合、米国債のデフォルトを引き起こす恐れがある。ソブリン危機がくすぶる欧州内でも、輸出堅調なドイツなど中核国と、デフレによる調整を余儀なくされる南欧など財政懸念国との二極化が進む。ユーロ圏の11年成長率は1.2%。英国は緊縮財政から同0.6%と予測。
日本経済は、11年度前半までは供給制約を強く受けるが、秋口以降は景気が持ち直す見通し。期待される設備や住宅の復興需要は、土地所有権の複雑化や復興計画策定および住民合意に時間を要し、地震直後から需要が発現した1995年阪神大震災のような展開は見込めない。成立した総額4兆円の1次補正予算に加え、本予測では2次補正は予算5兆円(事業規模で10〜15兆円)、12年度当初予算で4兆円の復興予算編成を想定。11年度成長率は▲0.3%と、前回(12月)予測より▲1.7%下方修正した。12年度は2.9%と、民間設備や住宅、公共事業の本格的な復興需要により、潜在成長率を大幅に上回る。復興財源は当面国債新規発行によるが、13年度以降に増税を想定。適切な財政政策で、この国難を積年の課題解決の好機にできるか、日本経済は正念場にある。
資料:実績はIMF、予測は日立総研
* 暦年ベースのため、日本の値は下表の年度ベースと異なる
資料:実績は「国民経済計算」、予測は日立総研