研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介
2007年3月25日
地球環境問題。この言葉からまず何を思い浮かべるだろうか。
公害問題、森林破壊、オゾン層破壊、地球温暖化。さまざまなキーワードで取り上げられ、重要な問題だと思いつつも、私たちは実際にどのくらい危機感を持ってきたのだろうか。最近では、ごみ分別、リサイクル、ハイブリッドカーなど生活にもなじみ深くなってきた。しかし「今年は暖冬で暖かくていいね」と言いながら、それがいったいどういう意味を持つのか。私たちはその意味をどのくらい深く考えているのだろうか。
本書は、元アメリカ副大統領のアル・ゴア氏が、30年以上にわたって取り組んできた地球環境問題に関する研究成果をまとめたものである。同名の映画は、本年のアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞および最優秀歌曲賞を受賞したことでも脚光を浴びた。
本書は非常にインパクトのある貴重な写真と分かりやすいグラフで構成されており、本文を読まなくとも、写真や図を眺めていくだけで十分に地球が予想以上の大打撃を受けている実態を感じとることができる。環境問題は重要だと言いながら自身の行動が矛盾していたり、他国で年々深刻化している自然災害を別世界の出来事のように思ってしまいがちな私たちにとって、非常に衝撃的な一冊である。
ゆっくりと起こっているように見える変化が実は想像以上のスピードで起こっていること、北極や南極の氷が解けることや海中の二酸化炭素の濃度が上昇することが私たちの生活に大きな変化を強いる日がもう目前に迫っていること、その事実をまざまざと見せ付けられ、私もがくぜんとした。
大学時代に地球温暖化問題に大きく心を動かされたゴア氏は、6歳の息子が事故で瀕死の状態に陥ったことで転機を迎えた。この時に「かつては緊急なことに思えていたものが、本当は取るに足らないものだと突然わかった」、「自分は本当はどのように自分の時間を使いたいのだろう」と自問した結果、地球環境問題に活動と知恵、創意の大部分を向けるべきと自覚したという。地球環境問題をライフワークとしたゴア氏は、議員になってからも、議会が温暖化に関する初の公聴会を開催する手助けをしたり、公聴会や科学討論会の議長を務めるなど積極的に活動を続け、アメリカ副大統領時代には「京都議定書」の起草に大きく関わった。科学者とも親交を深め、実際に足を運び収集した最新の科学データのスライドを元に、アメリカ内外で1,000回以上の講演活動を行ってきた。本書は30年以上にわたる地球環境問題に関するゴア氏の研究の集大成であり、ゴア氏自身の半生記でもある。
ゴア氏は元アメリカ副大統領でありながら、アメリカが地球環境問題においてどれだけ遅れをとっているかを全世界に向けて示し、この問題に関して意図的な情報操作を行い、京都議定書の批准を拒否し続けるブッシュ政権をも批判している。今でこそ「環境に優しいことはお金にもなる」と説明し「エコマジネーションSM」*というビジョンを発表したイメルト氏(General Electric社、会長兼CEO)のように、環境への配慮と経営は両立するとする企業経営者も現れてきたが、本書は、経済活動に不利益だという理由で「不都合な真実」に耳を傾けようとしない多くの政治家や企業経営者への30年以上にわたる真っ向からの挑戦の記録でもある。
同時に、本書は私たち地球民への挑戦状でもあるように思える。本書に書かれた事実は、地球環境問題に対処しようとするとコストがかかる、生活に不自由を強いる、など、政治家や企業経営者だけでなく私たち個人にとっても「不都合な真実」であるのかもしれない。しかし、この事実を深刻に受け止め今行動しないと、それらは私たちにとってもっと重大な「不都合」を生じることは明らかであると本書は訴えている。本書には最後に、地球のために私たちが生活の中でできる小さな努力についてもまとめられているが、それは今すぐにでも私たちが行動に起こせるように、非常に具体的に記載されている。また、その行動が私たちの現在の生活に「不都合」を生じるどころか、逆に「好都合」となる方法も多く紹介されている。ここまで強力に突きつけられた事実を真摯(しんし)に受け止め、どこまで行動を変容でき、結果的に地球の現状を好転できるか…私たち一人一人の挑戦こそが大きな力になるのかもしれない。