所属部署 研究第三部 技術戦略グループ
氏名:西村啓志
CobotとはCollaborative Robotの略です。ヒトと同じ空間で作業を行い、モノづくりなどの生産性や作業性を向上させるロボットのことを指します。現在ロボットは、自動車や電気・電子製品などの製造業を中心に導入が進んでいますが、将来的にはそれ以外の製造業や非製造業にも拡大すると考えられます*。
従来、ロボットは、主に工場などで人手では危険・困難な作業を自動化していました。具体的には、重い部品の搬送・組み立てや塗装・溶接、あるいは細かく正確な作業が必要なスマートフォンや半導体の組み立て作業を担っていました。これらのロボットは、安全性の観点から保護フェンスに囲われた特定エリア内で稼働していました。
一方、Cobotは従来の産業用ロボットと比べて出力が抑えられており、駆動部を小型にして軽量・省スペースを実現しています。さらに、センシング技術や画像認識技術の発達・普及により、ヒトをより正確に認識できるようになったため、安全性が高まりヒトのすぐそばの作業が可能になりました。加えて、ハンドリング技術の向上は、ロボットのできる作業の幅を広げました。
Cobotは、例えばヒトも作業しているコンベヤ上で必要な部品のピッキングや仮組み立てを行い、その後ヒトが最終的な仕上げを行うという形で、ヒトとの協働が可能です。最近では、Cobotが主体となって作業を行い、ヒトがCobotを支援する製品・システムも開発されており、ヒトとの協働のあり方は大きく変化しつつあります。
Cobotが広がっている背景には、大きく分けて三つの理由が考えられます。
第1は、ロボットの開発環境の変化です。2007年の産業用ロボットの設計・製造上の安全確保に関する国際標準「ISO 10218」に続き、2011年にはロボットの制御システム設計や設置における安全確保に関する「ISO 10218-2」が策定されました。2016年には「ISO/TS15066」がヒトとの協働作業上の安全確保のための具体的な設計要件を規定し、メーカーがCobotを開発しやすい環境が整備されました。日本でも、産業用ロボットに関して2013年、十分なリスクアセスメントを行う、もしくはISO標準に準拠していることを条件に、出力が80ワット以上のロボットでもヒトと同じスペースで作業ができるよう規制が緩和されました。また2015年には、政府が「ロボット新戦略」を公表し、ロボット全般の導入実証実験に対して補助金支援などの財政支援もなされています。
第2は、ロボットの導入・運用コストの低下です。従来の産業用ロボットは、導入時や生産ラインの変更時に、ヒトによるロボットへの長期間のティーチング作業を必要とし、その期間に生産作業が停止してしまうなど、導入に対する初期投資や運用コストが膨らむ傾向にありました。そのためロボットの導入は、生産する製品の単価が高く、長期投資回収にも耐えうる自動車や電子部品・半導体などの業界の大企業に限られていました。しかし、近年AI(人工知能)やセンシング技術の発達で、ロボットによる自己学習が一部実現し、ヒトによるティーチング作業の負担が軽減されました。さらに、ロボット開発の標準化・規格化による価格低下に加えて、アジアを中心に賃金が上昇しています。中国国家統計局によると、中国では2006年から2016年の10年間に賃金が3倍以上に上昇しました。ロボットとヒトの時間当たりコストは逆転しつつあります。
第3は、Cobotの利便性向上です。Cobotは、プログラミングなどの専門的知識がない作業員でも、容易に操作やティーチングが可能なユーザーインターフェースを導入しています。簡単に操作ができるタッチパネル式のものや、アームを直接動かすことで作業を覚えさせる「ダイレクト・ティーチング」機能を備えたCobotもあります。また、最初に述べたとおり、Cobotは従来の産業用ロボットに比べて、軽量・省スペースという大きな特徴があります。そのため、台車やAGV(Automated Guided Vehicle、自動搬送車)と一体化するなど移動しやすい設計がなされています。
以上のような背景から、Cobot導入は広がりつつあり、マーケット調査会社の富士経済によるとグローバル市場規模は2020年に2,000億円、2025年に5,900億円に達すると予測されています。Cobotは自動車や電子製品などの製造業だけではなく、これまでロボットがほとんど導入されていなかった他の製造業やサービス業への導入が期待されています。
例えば食品・化粧品・医薬品の製造業は、扱う品目が多く、かつ商品のライフサイクルが短いため、作業工程が変わりやすいなどの特徴があります。従来のロボットでは、生産ライン変更に伴うロボットの設置変更は作業負担が大きく、ロボット導入は非現実的でした。しかしながら、保護フェンスを必要とせず、軽量・省スペースで利便性の高いCobotであれば、生産ライン変更に柔軟な対応が可能となります。
カワダロボティクスが製造するNEXTAGEは、ヒトの手の繊細な動きを再現できるヒト型のCobotで、大手化粧品メーカーの製造過程に試験導入されています。川崎重工の「duAro」は1人分のスペースで同軸上の2アームが協調作業できることが特徴です。こちらは、食品製造工場においておにぎりの製造過程に導入されています。ライフロボティクスが製造するCOROは、アームの肘に相当する部分を、回転させるのではなく収縮させる機構にすることで、専有面積が人間1人分以下という省スペースでの作業が可能であり、大手牛丼チェーンの食器洗浄過程に実証事業の一環として導入されています。
現在Cobotは、ヒトが主体となって行う作業を補助するという形で、ヒトとの協働を実現しつつありますが、今後はCobotが主体となって作業を行い、ヒトがCobotを支援するという新しい協働のあり方を示す製品・システムが開発され始めています。
例えば、6 River Systemsという米国のスタートアップが開発した、物流倉庫内の自律走行型ピッキングカートロボットで、「Chuck」というCobotがあります。物流倉庫内の自律走行型ピッキングカートロボットです。従来の物流倉庫では、ヒトがピッキングカートを押しながら長い距離を移動して、必要な商品を集めていました。その際ピッキング箇所までの経路は作業者自身が状況にあわせて決定していました。一方、ピッキングカートロボットであるChuckは自律的に移動し、作業者をピッキング箇所まで先導して、ピッキングの指示を行います。Chuckは常に最短経路で移動するので、作業者は自分でルートを考える必要はありません。さらにピッキング効率が最大になるようタスクに優先順位を設定し、作業者に割り振るなど、その役割は非定型業務の領域にまで及んでいると言ってよいでしょう。
この新しいCobotは、WMS(Warehouse Management System)など上位システムとAPI(Application Programming Interface)を通じて連携し動作します。Cobotによって、これまで把握が困難だったヒトの動きを見える化し、システム上でヒトの作業内容も含めた工程全体の最適化を図ることが可能になります。このようにCobotは作業現場のデジタル化にも貢献すると考えられます。
ロボットとヒトは、かつて物理的にへだたれた空間において、それぞれが得意な作業にのみ専念していました。それがCobotの登場により、ロボットがヒトの作業をそばで補佐するという形で「協働」を実現しました。さらに新しいCobotは、自らが主体となって作業し、ヒトがロボットを支援するという新しい「協働」のあり方を示しています。ヒトとロボットの「協働」のあり方は今後も大きく変わっていくと考えられます。
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