所属部署 研究第二部 産業グループ
氏名:生田創
シェールガスやタイトオイルなどの非在来型資源の開発が注目されています。非在来型資源とは、従来開発されてきた天然ガス田や油田以外から採掘されたエネルギー資源のことを指します。水平坑井、水圧破砕(hydraulic fracturing、通称fracking)といった技術開発が積み重ねられたことによって採掘コストが大幅に低下し、米国では「シェールガス革命」とまでいわれるシェールガス開発ブームが2005年頃から起こっています。
フラクチャリング流体(fracturing fluid)とは、このような非在来型資源を採掘する際に使用する液体のことです。フラッキング水(fracking water)とも呼ばれています。
一般的なシェールガス採掘では、まず垂直坑井を途中から曲げて数千メートル地下にある頁岩(シェール)層に沿って水平坑井を掘削します。そこへフラクチャリング流体を送り込み、圧力をかけて作った割れ目(フラクチャー)にプロパントと呼ばれる特殊な砂粒を滑り込ませます。これが支えとなってフラクチャーが自然に閉じることを防ぎ、シェールガスやタイトオイルなどの継続的な回収を可能にします。このプロセスを水圧破砕と呼びます。
フラクチャリング流体の90%以上は水です。残りの数%がプロパントで、酸、防腐剤、ゲル化剤、摩擦低減剤などの化学物質が1%未満の割合で加えられます。なお、化学物質の組成は企業によって異なります。
非在来型資源の開発でよく問題とされているのが以下の6点です。
このうち、最も懸念されているのが(1)で、1坑井当たり3,000〜10,000トンもの水を使用するといわれています。特に本年(2012年)は、大干ばつにより米国各地で深刻な水不足が生じたことから、多くの州で水圧破砕への水使用が停止されており、来年以降の水使用制限の動向が注目されています。(2)にある通り、使用済みフラクチャリング流体は多くの化学物質などを含んでいるため、事故による漏出など近隣社会への潜在的リスクをもたらします。(3)は、垂直坑井の表層部にある地下水源層近傍のコンクリート壁や輸送前の貯水池などからの漏出が原因だともいわれています。また、(4)(5)のように、シェールガスの主成分であり二酸化炭素の20倍以上の地球温暖化係数を持つメタンガスの大気中への漏出や、地滑りなどを懸念する学者や住民もいます。
これらの問題を解決するため、現場ではさまざまな試みがなされています。対策の基本は3R(Reduce、Reuse、Recycle)となっており、化学物質の使用量を減らし、フラクチャリング流体を再利用し、一部をその場で処理して再生利用するなどの取り組みが行われています。処理は凝集分離や逆浸透膜、蒸留技術などの組み合わせが主流となっており、それ以外にもさまざまな技術の適用が検討されています。ただし、フラクチャリング流体を繰り返し使用することにより鉱物から溶出した放射性物質の濃度上昇の可能性が指摘されており、今後注視する必要があるといわれています。また、地表面近くの地下水源領域で坑井のケーシングと呼ばれる保護の強化や、回収したフラクチャリング流体から大気中へのメタンガス漏出を防ぐため、密閉貯留タンクからガスを回収する試みも進められています。
一方、全く異なる切り口で期待されているのが、カナダのGASFRAC Energy Services社が開発したLPG破砕(Liquefied Petroleum Gas fracturing)です。水を使わずにゲル状のLPGを使って前述の水圧破砕を行う方法であり、圧力と熱の調整だけでLPGゲルをガス化させて回収でき、化学物質や放射性物質を地上に上げることがないことから、課題解決の突破口として今後の展開が期待されています。
現在、シェールガス開発が最も進んでいる米国では、採掘現場が人口密集地と重なる地域も多く、環境リスクへの不安が生じています。バーモント州や一部地域などでは水圧破砕法を禁止、または凍結しており、フラクチャリング流体に使用する化学物質の情報開示を義務付ける動きも出始めています。ただし、いずれも州政府レベル以下での規制強化であり、対応には差があることから、今後連邦政府レベルでの一元的な法整備が進む可能性が出てきています。現在、EPA(連邦政府環境保護庁)は、飲料用水の汚染リスク調査を実施しており、2014年に調査結果を公表する予定であり、これが今後の規制を議論する際の重要な材料になるとされています。なお、シェールガスなどの非在来型資源の開発は、米国にとどまらず、現在世界中で進められており、今後、国際的なガイドラインの整備が進む可能性も考えられます。
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