所属部署 研究第一部 経済グループ
氏名:上田優子
復興債とは、東日本大震災の復旧・復興財源を調達するために財務省が発行している国債のことです。復旧・復興費用のうち、歳出削減や政府の資産売却などによる税外収入、決算剰余金などではまかないきれない金額を、復興債の発行によって調達するというものです。
復興債には、通常の国債発行と異なり、主に次のような特徴があります。
2011年11月21日に成立した第3次補正予算の財源として約11.6兆円の復興債が発行されました。2012年度には復興庁の活動費約2.0兆円を含む約2.7兆円が発行される予定で、合計約14.3兆円(2010年度GDP比3.0%)となります。11月30日に成立した復興財源確保法では、所得税の25年間2.1%上乗せ(増税規模約7.5兆円)、個人住民税の10年間年1,000円上乗せ(同約0.6兆円)、法人税の3年間2.4%上乗せ(同約2.4兆円)による臨時増税10.5兆円に加え、資産売却などによる税外収入5兆円で15.5兆円の償還財源を確定しています。
過去にも、戦争や震災などからの復興に伴う歳出増加の財源調達のために、復興債が発行された例があります。復興債が初めて発行されたのは、1923年9月の関東大震災後です。当時の内務大臣兼帝都復興院総裁・後藤新平氏が、復興計画への利用に限定した予算の調達を提言し、約5.8億円(1923年GNP比約3.9%)の復興債が発行され、現在の東京の都市計画の礎となるようなインフラ工事が行われました。
太平洋戦争の際にも戦費調達のために当時の税収を上回る額の戦時国債が発行されました。この国債の大半は日本銀行(以下、日銀)が直接引き受け、日銀がその返済のために紙幣を大量に市中に供給したためにハイパーインフレをもたらしました。その反省を踏まえ、日銀の直接の国債引き受けを禁止した財政法が1947年に施行されました。
1995年1月の阪神・淡路大震災では、1994〜1995年度に組成された補正予算に対応して建設国債のほか約0.8兆円の震災特別公債(償還期限60年)が発行されました。
阪神・淡路大震災発生時の震災特別公債の発行は、発行金額が比較的小さかった、日本政府の財政状況に現在より余裕があったという点において、復興債を取り巻く状況と異なっています。復興債の発行額は2011〜12年度合計約14.3兆円(2010年度GDP比3.0%)と決して小さくありません。また、日本経済がバブル崩壊後、デフレ下で民間部門が過剰債務の削減に苦闘する中、政府部門の財政出動により景気の底割れを防いできた結果、国債発行残高は過去17年間で急速に増加しています。
建設国債、赤字国債、財政投融資特別会計国債(財投債)、復興債を合わせた国債発行残高は、阪神・淡路大震災が発生した1994年度には約206.6兆円(1994年度GDP比41.6%)でしたが、2001年度には約392.4兆円(2001年度GDP比78.2%)、2011年度末(見通し)には約789.9兆円(2010年度GDP比164.8%)と4倍弱、GDP比で123.2%ポイント分膨らんでいます。
一般的に、生産年齢(15〜64歳)にある人は将来に向け所得を貯蓄に回す割合が高い傾向にあり、高齢者(65歳以上)は年金に頼りつつ貯金を取り崩して生活する傾向にあります。そのため、生産年齢人口の減少と高齢者の増加は、日本全体の貯蓄残高が将来的に減少していくことを意味します。今後団塊の世代(1947年〜1951年生まれ)が高齢者となり、医療や介護の給付など社会保障費の増大と、日本全体の貯蓄残高低下が見込まれる中で、国債発行残高が増え続けると、国内外から日本の財政の持続性に対する信頼低下を招きかねません。
これを避けたい政府は、2010年6月に財政健全化目標を定め、経済見通しや財政展望を踏まえつつ翌年度以降3年間を視野に入れて毎年度の予算編成を行う仕組み(中期財政フレーム)を導入しています。東日本大震災はこうした見通しの想定外の出来事だったため、復興債および、税外収入や時限的な財政措置により確保された金額は、中期財政フレームの外に位置付け、東日本大震災復興特別会計の中で厳格に管理されていく予定です。
将来世代が復興による便益を享受し、また被災地の復興を日本経済全体の回復につなげるためにも、財政的な透明性を持って復興債の発行・償還状況を管理し、効果的・効率的に復興計画を実行・監視していくことが求められています。
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