所属部署 技術戦略グループ
氏名:原田直
マイクロブログの人気が、インターネット上に形成されるコミュニティーの枠組みを大きく変える勢いで高まってきています。マイクロブログとは、今どこで何をしているか、どんなことを考えているか、といった日常の気軽な「つぶやき」をパソコンや携帯電話などから書き込む簡易型ブログのことです。その代表的なサービスとして米Twitter社のTwitterがあります。マイクロブログ上でユーザー登録を行うと、そこに自分専用ページ(「ホーム」といいます)が作成されます。ユーザーはホーム上で自身のつぶやきや収集した写真、ブログ記事、気になるURLなどを任意のタイミングで掲載することができます。また、関心のあるほかのユーザーのつぶやきを自動的にホームに表示させる「フォロー」という機能がユーザー間の情報共有を可能にしており、ネット上に共通の話題でコミュニティーをつくるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)としての機能を有しているといえます。米国ではオバマ大統領など著名人によるマイクロブログを活用した情報発信が盛んになったことで利用者数を伸ばしており、現在のユーザー数は全世界で4,500万人に上ります。国内においてもその利便性が徐々に認識され始めています。
マイクロブログが注目される理由として、従来のブログ・SNSとは異なる三つの特徴が考えられます。 一つ目は、リアルタイム性です。マイクロブログでは、今どこで何をしているか、どんなことが起きているか、といったつぶやきを世界各地何千万人というユーザーが時々刻々と投稿しています。どこかで発生した事件・事故は、発生時点からそれらについてのつぶやきが一斉に投稿され、それをフォローする人たちの連鎖によって伝言ゲームのような形で全世界へと広がっていきます。ときには、通常のメディアが情報発信するよりも早い場合があります。2009年6月に発生したイラクの不正選挙問題や、7月の中国・新疆ウイグル自治区での暴動事件では、厳しい報道規制の中、マイクロブログが貴重なリアルタイム情報の発信源として活用されたといわれています。
二つ目は、シンプル性です。マイクロブログでは、ハンドル名、ユーザープロフィール、メッセージの長さが制限されています。これによって、「価値ある情報を提供しなければならない」、「伝わりやすい文章構成を考えなければならない」といった義務感がなくなり、ユーザーは気軽につぶやくことができます。
三つ目は、豊富なAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)が提供されていることです。APIとは、ソフトウエアを開発する際に使用できる命令や関数の集合のことです。マイクロブログでは描画などのよく使う機能がAPIとして豊富に提供されているため、プログラム開発の手間が省け、PCから携帯まで、Linux、WindowsからAndroid(アンドロイド:携帯電話などの携帯端末をターゲットとして開発されたオペレーティングシステム)まで、幅広いプラットフォームでマイクロブログ対応のソフトウエアを開発することが可能になっています。
マイクロブログが持つ特徴を生かし、効果的にビジネスへ利用する企業も出てきています。米国最大手のケーブルテレビ会社コムキャストは、10人のチームでマイクロブログユーザーのつぶやきを定期的にチェックしており、そこで発見したコムキャストに対するつぶやきを基に品質改善を実施しています。マイクロブログを活用することよって、受動的にではなく能動的なクレーム対応を実現している例といえます。また、DellはTwitter上の自社ホームに売れ残った商品の広告を出しています。Dellのホームは、既に100万人以上のユーザーからフォローされているため、マイクロブログが果たす広告媒体としての役割は非常に大きなものです。
国内においても、紀伊國屋書店やタワーレコードなどがTwitterでホームを開設したり、証券業界ではイニシア・スター証券が顧客と対話性のあるコミュニケーションツールとして同じくTwitterの活用を始めました。また、地方自治体でも、青森県庁や北海道陸別町などが活動ニュースを流す媒体として利用を開始しています。
エコシステムとは、オープンソフトウエアのように自社技術を公開し合ったり、複数の企業が協調的に活動して技術を開発したり、業界全体の収益を維持していく仕組みのことです。マイクロブログは、ほかの企業が周辺アプリケーションを自由に開発できる環境を準備し続けることで大規模なエコシステムを実現する可能性があります。もし、テレビを見ていて何かをつぶやきたいと思ったら、マイクロブログはテレビ上で使えるのが自然です。同じように、移動中は携帯電話を利用したいと思うでしょうし、ゲーム中ならゲーム機です。現在、ユーザーのライフスタイルの中にマイクロブログが溶け込む理想像を目指し、さまざまな端末メーカーがより簡単にマイクロブログを使えないかという点に興味を持ち始めています。
ネットマーケティングの世界ではおおむね5年を1サイクルとして新たなマーケティングツールが出てきています。10年前のウェブ、5年前のブログ、そして現在のマイクロブログと、今後コミュニケーションツールは複数のマーケットをダイレクトかつリアルタイムに融合させる重要な役割へと変ぼうしていくのかもしれません。
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