所属部署 経営グループ
氏名:村本忠
団塊の世代が定年退職を迎える中、若手人材の確保・育成は、日本の企業が国際競争力を維持する上で最も重要な課題の一つと言えます。また、人口減少・少子高齢化により、社会人全般の能力を底上げしなければ日本が活力ある社会を維持することは困難と考えられます。経済産業省は、社会のあらゆる場面で必要とされる基礎的な能力を「社会人基礎力」と名付け、基礎学力や専門的な知識、人間性や基本的な生活習慣と相互に作用しながら、循環的に成長していく能力として明確化しました。社会人基礎力は以下の3つの能力で構成されます。
この3つの能力は、それぞれが不可欠でかつ相互につながりが深いことから、一つのグループとして身に付けることが望まれるとされています。それぞれの能力は主体性や課題発見力などの能力要素によって構成されており、育成や評価を行うための判定基準が示されています(表1)。
能力 | 能力要素 | 内容 |
---|---|---|
前に踏み出す力 (アクション) | 主体性 | 物事に進んで取り組む力 |
働きかけ力 | 他人に働きかけ巻き込む力 | |
実行力 | 目的を設定し確実に行動する力 | |
考え抜く力 (シンキング) | 課題発見力 | 現状を分析し目的や課題を明らかにする力 |
計画力 | 課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力 | |
創造力 | 新しい価値を生み出す力 | |
チームで働く力 (チームワーク) | 発信力 | 自分の意見をわかりやすく伝える力 |
傾聴力 | 相手の意見を丁寧に聴く力 | |
柔軟性 | 意見の違いや立場の違いを理解する力 | |
情況把握力 | 自分と周囲の人々と物事との関係性を理解する力 | |
規律性 | 社会のルールや人との約束を守る力 | |
ストレスコントロール力 | ストレスの発生源に対応する力 |
資料:経済産業省 社会人基礎力に関する研究会「中間とりまとめ」(2006年1月)より日立総研作成
近年、日本の学生の能力低下が指摘されていますが、特に、学ぶ意欲の低さなどからくる基礎学力の低下や、コミュニケーション能力や課題解決力など、社会人基礎力に当たる能力の低下が問題視されています。また、企業においては、採用のミスマッチ解消や人材育成の取り組みが課題となっております。経済産業省の調査などによると、企業は求める人材像をある程度は学生に伝えられていると認識していますが、一方の学生は職場や地域社会でどのような力が求められているのかが明確ではないと感じており、両者の認識には大きなギャップが見られます。このことが就職プロセスにおけるミスマッチを生み、昨今のいわゆる「7・5・3問題」(中卒者の7割、高卒者の5割、大卒者の3割が就職から3年以内に離職)などの背景に当たると考えられます。こうした課題の解決を図る上で、社会人基礎力は学生や企業、地域社会をつなぐ共通言語となり、また、それらが連携して若手人材を育成する上での共通指標としての役割を担うでしょう。
経済産業省が2006年2月に実施したアンケート調査によると、企業の9割以上が採用、人材育成のプロセスにおいて社会人基礎力を重視しているという結果が出ました。従来、社会人基礎力と定義されるような能力は、幼少期からの成長過程において、人とのつながりの中で「自然に」磨かれ、身に付くものと考えられてきました。しかしながら、そうした能力は少子化・核家族化、地域コミュニティーの崩壊などによって習得の場が減少したため、自然に身に付くものではなく、意識して育成すべき力であると認識しなければならなくなったのです。
社会人基礎力の育成のためには、教育現場や企業、地域社会が連携して取り組む必要があります。そうした取り組みは既に一部で実施され始めており、例えば、経済産業省では2007年6月、「産学連携による社会人基礎力の育成・評価事業」として7件のプログラムを採択しました。これは企業などから与えられた課題解決型授業や実践型インターンシップ(就業体験)などの教育プログラムを通じて、学生の社会人基礎力の育成・評価を行い、その成果を企業に明示する取り組みであります。こうした取り組みが今後ますます広がりを見せ、将来の日本を支える人材を長期的に育成する新たな仕組みとして定着することが期待されます。
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