所属部署 エネルギー・環境システムグループ
氏名:坂本尚史
「リスボン戦略(Lisbon Strategy)」とは、2000年3月に、ポルトガルの首都リスボンで開催された欧州連合(EU)首脳会議で採択された、2010年をターゲットとする長期的な経済・社会改革戦略です。 採択された当初は、知識経済(knowledge-based economy)への移行のための経済政策と貧困克服・完全雇用実現のための社会・雇用政策などからなる広範な戦略でした。しかし、その達成状況が思わしくないことから、2005年に戦略の範囲を絞り込み、経済成長と雇用拡大に重点を置いた戦略に改定されました。改定されたリスボン戦略の内容は下記の通りですが、リスボン戦略は、EUの競争力強化策としての意味も持っており、現在でも、2010年をターゲットとしたEUの最重要戦略と位置づけられています。
目標 | 実施事項 | 具体策の例 |
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投資と労働のためのより魅力的な場所へ |
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成長のための知識経済とイノベーション促進 |
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より多くの、より質の高い雇用の創出 |
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資料:欧州委員会「Working together for growth and jobs:A new start for the Lisbon Strategy」(2005年2月)より日立総研作成
2000年に採択された当初のリスボン戦略は、より質の高い職業の創出、社会的連帯の強化、持続的な経済成長により、2010年までに、「EUを世界で最もダイナミック、かつ、競争力のある知識経済にする」という非常に野心的なビジョンを掲げていました。このビジョンに基づき、雇用率、女性雇用率、研究開発費のGDP比率、インターネット利用世帯比率などについて非常に高い目標を設定しました。
2000年3月のリスボン戦略策定は、インターネットを中心とした情報通信技術の発展、IT産業の急成長による生産性の向上をもてはやした米国の「ニューエコノミー論」に対するEUの対抗戦略という意味があったといえます。「知識経済(knowledge-based economy)」という言葉を使い、「eEurope行動計画」を打ち出して、遅れをとっていたインターネットの普及と通信サービスの自由化を進めようとしました。初期のリスボン戦略は、IT産業を経済成長と雇用拡大のエンジンと位置づけていました。
リスボン戦略で設定された各種の目標数値は、毎年のEU首脳会議で達成状況がチェックされましたが、2004年3月のEU首脳会議では、経済成長率と雇用率の目標値を中心に、2010年の目標達成に向けた進捗の遅れが確認されました。首脳会議の要請により、専門家グループが戦略の見直しを行った結果、そもそも28の主要目標、120の諸目標、117の指標を設定している戦略の対象範囲が広すぎることに加え、目標達成に向けた加盟国の具体的行動が欠落していることが明らかになりました。
この専門家グループの評価結果を踏まえて、2005年3月のEU首脳会議は、最も重要な課題であった、経済成長率の引き上げと雇用拡大にフォーカスした「新リスボン戦略」を採択しました。新リスボン戦略では、特に、技術開発と教育への投資の停滞が問題視され、新たな雇用創出分野として認識されたエネルギー・環境技術、ナノテクノロジーなどへの研究開発投資の拡充などが盛り込まれました。
リスボン戦略は、EUの競争力強化策としての意味を持っているため、米国の「イノベート・アメリカ」や先日発表された日本の「イノベーション25」と比較検討すべきでしょう。
「新リスボン戦略」に関して、特に日本が注目すべきは、既存のIT産業に加えて、エネルギー・環境産業を雇用創出と地域競争力の重要な源泉と位置づけたことです。一方で、EUは、地球温暖化防止に関して、主要国首脳会議(サミット)やCOP会議(国連気候変動枠組み条約締約国会議)などの場で、温室効果ガスの削減目標に先行してコミットし、他国にも同様の目標を設定するよう働きかけるなど、積極的な外交交渉を展開しています。こうした積極外交の背景には、リスボン戦略が目指す域内エネルギー・環境産業の振興という意図があるといえます。EUにとってリスボン戦略と地球温暖化防止の国際交渉は一体であり、EUと同様に、エネルギー・環境技術を国際競争力の源泉にしようとしている日本は、EUを超える取り組みを実行する必要があるでしょう。
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