所属部署 社会・生活システムグループ
氏名:西谷亜希子
生活習慣病の代表ともいえる「高血圧」や「高脂血症」、「糖尿病」などは、個々の原因で発症するというよりも、特に内臓に脂肪が蓄積した肥満が強く影響していると考えられています。内臓脂肪の蓄積により、さまざまな病気が引き起こされた状態は「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」と呼ばれ、近年注目されています。
日本では2005年4月にメタボリックシンドローム診断基準検討委員会により発表された「メタボリックシンドロームの定義と診断基準」により、内臓脂肪の蓄積が必須条件で、腹囲(おへそ周り)が男性85cm以上、女性90cm以上(腹部CT画像で精密に内臓脂肪を測定した場合、断面積100cm? に相当)を基準値とします。さらに
の3項目のうち、二つ以上該当すればメタボリックシンドローム、一つ該当しただけでも予備軍と診断されます。仮にそれぞれの程度が軽症だったり、まだ病気とは診断されない予備群だとしても、これらの条件が重なることで脳卒中や心筋梗塞の原因である動脈硬化が急速に進むことが分かっています。厚生労働省の推定では、日本人の40歳から74歳男性の二人に一人、女性の五人に一人がメタボリックシンドロームの疑いがあるか予備軍であり、その数は約2,000万人にも上ります。
言うまでもなく事業者にとって最も重要な資産は人材であり、これらの人材の健康状態は経営にも大きく影響します。メタボリックシンドロームと予備軍の多くは現役のビジネスマンですので、事業者としても従業員の健康問題を単に個人の自己責任としておくことはできなくなってきています。従業員の生産性を向上させ競争力を高めるために、従業員の健康管理は経営戦略の一環として必要な投資だとする考えも広がってきました。会社や健康保険組合、社員が一丸となって健康管理に取り組むことで、社員の健康状態が回復するだけでなく、生産性も向上し、一人当たりの医療費も削減させるという、投資を上回る成果を上げる企業も現れ始めています。
日本経済団体連合会でも、2006年8月の「生活習慣病予防に係る効率的で質の高い特定健康診査・特定保健指導の実施に向けて」の中で、「民間企業には、社員が活き活きとした生活を営めるよう健康増進に努める責務があることから、保険者と連携しつつ、社員及び家族の生活習慣病予防のため、経営者自らが率先して健診・保健指導の支援に取り組んでいくべきである」と提言しています。 また、昨今のメタボリックシンドロームブームや、特定健診・特定保健指導の導入を背景に、健康・生活習慣病関連マーケットが急速に拡大すると見られており、すでに医療機関や民間健康関連施設、民間企業などが、さまざまなサービスや商品の開発・提供を始めています。
今やメタボリックシンドローム対策は、日本の経済や社会にも大きな影響を与えているといえそうです。
高齢化と少子化の影響による国民医療費の高騰を背景に、2006年度の医療制度改革において増え続ける医療給付の主要因である生活習慣関連疾患の予防に積極的に踏み込むこととになりました。これにより健康保険組合や国民健康保険などすべての保険者に対して、2008年4月から40歳から74歳の保険加入者を対象とした「特定健康診査(特定健診)」という新しい健診実施が義務付けられました。厚生労働省は医療費削減の切り札として、2012年度末までに約2,000万人のメタボリックシンドロームと予備軍を10%、2015年度末までに25%減らす目標を立てています。
この特定健診は、従来の労働安全衛生法上の法定健診項目と比較すると、新たに腹囲のと、LDLコレステロール、尿酸値、HbA1c(血糖コントロールの目安値)などの血液検査項目が追加されるなど、メタボリックシンドロームに特化している点が特徴です。また、特定健診でメタボリックシンドロームや予備軍と診断された該当者を対象に面接や保健指導などの特定保健指導を実施することも義務化されます。さらに健康保険組合などの保険者に対してはメタボリックシンドローム改善の達成状況によって後期高齢者支援金がプラスマイナス10%の範囲で減加算されるようになるため、取り組みの促進が予測されます。
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