所属部署 サービス・イノベーショングループ
氏名:小袋俊一郎
知的資産経営報告とは、伝統的な財務諸表を補完するための新しい情報開示手法で、企業がどのように将来の財務的価値を生み出そうとしているかを、経営者の視点から、投資家など企業外部のステークホルダに向けて報告するものです。
欧州では、"Intellectual Capital Statement(知的資本報告)"と呼称されており、スウェーデン、デンマークなど北欧諸国において、100社以上が自主的に作成、開示しています。日本においても、2005年10月、経済産業省が「知的資産経営の開示ガイドライン」を公表しており、日産自動車など10社以上が知的資産経営報告書を作成・開示しています。
企業は、その製品やサービスを差別化するイノベーションを持続的に創出していかなければなりません。しかし、人的資産、組織資産、顧客・ブランド資産など、他社との差別化を生み出す源泉となる知的資産の多くは、特許権や商標権など権利化されたものを除き、伝統的な財務諸表には計上されません。つまり財務諸表だけでは、投資家が投資意思決定を行うための情報として不十分であるということが強く認識されるようになっています。そのため財務諸表を補完し、かつ投資家の意思決定に資する情報として、知的資産経営報告が注目されているのです。
2005年10月、IASB(国際会計基準審議会)は、財務諸表外情報の開示に関する討議資料"Management Commentary(経営者による説明)"を公表して、知的資産の重要性の高まりに対応した新しい財務報告モデルを提案しました。さらにIASBは、FASB(米国財務会計基準審議会)との共同プロジェクトにおいて、将来の法定開示化を含む議論を開始しています。
ただし法定開示化は、それ自体、知的資産経営報告の実用可能性につながるものではありません。これまで開示されている知的資産経営報告の中には、自社の知的資産に関する複数の指標およびその傾向を定量的に開示しているに過ぎず、それらが財務的価値の創出にどのように貢献するのかが必ずしも明確になっていないケースも散見されるからです。今後、知的資産経営報告が、有効な情報開示媒体として根付いていくためには、将来業績との関連性が高いKPI(主要重要業績指標)を見極めるだけでなく、知的資産の活用が将来の財務的価値の創出にどのようにつながっているのかを、より明確にしていくことが不可欠になるでしょう。
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