所属部署 アジア・ビジネスグループ
氏名:松本力也
環境マネジメントとは、企業がマネジメントの対象として環境リスクや生物多様性の劣化という自然環境の不確実性をとらえることによって、それを企業利益の増大に役立てるマネジメントプロセスのこととされています(鈴木、2006)*。環境マネジメントという概念は、今でこそよく見聞することができます。しかしその歴史は古く、わが国では公害対策・環境対策が社会問題となっていた1977年に、横浜国立大学の鈴木邦雄教授(現在)が環境管理学の講座を担当したのが最初と言われています。1970年代当時の自然環境は、公害対策や環境対策のように、汚染や被害をいかに食い止めるかという「対策」が中心でした。それにもかかわらず鈴木教授は、自然環境の劣化という不確実な部分に関して、対策を立てるだけではなく「管理=マネジメント」することが重要と説いていました。
環境マネジメントは、4つのプロセスから成っています。そのプロセスは、(1)対象となる自然環境の知見・情報を収集し、(2)評価し、それを基に(3)企業経営の到達目標を設定し、(4)実現のための戦略を立案する、ことです。そしてこのプロセスには、次の四つの特徴があります。第1のポイントは、枠組の設定です。対象となる地域・地点の生態系や自然環境に関する価値を評価し、企業経営の中で保全・利用の基準を決定することです。第2のポイントは、設定した枠組みを維持するための保護・保全あるいは枠組みを超えない範囲内での利用計画を設計することです。第3のポイントは利用計画の推進です。そして第4のポイントは、枠組みが守られているか、計画通りに自然環境が維持されているかを企業が持続的にチェックし、修正を施すことです。
このようなマネジメントプロセスには、予防的側面と治療的側面とがあります。予防的側面には、リターナブル瓶や簡易包装の利用、オンデマンド生産の推進といった環境リスクの軽減があります。これに対して治療的側面には、環境汚染や環境劣化に関する修復、再生、代替を行うことがあります。そしてこれら二つの側面からは、企業が予防と治療の両側面から費用と効果を検討する必要があります。企業には収益性という制約があり、また消費者にとっては利便性や快適性も重要な影響要因となります。つまり環境マネジメントのマネジメントプロセスは企業ごとにケース・バイ・ケースとなるため、その導入には企業の収益性と消費者の利便性・快適性との間で、一定のバランス感覚が必要となります。
マネジメントの対象として自然環境をとらえることは、今日では特に新しいことではありません。しかし企業は、環境リスクや生物多様性の劣化という自然環境の不確実性をマネジメントの対象としてとらえ、それを企業利益の増大に役立てるようになってきました。ここに環境マネジメントが今日の企業経営に投げかける意義があるといえます。すなわち個々の企業はどのように環境マネジメントのマネジメントプロセスをつないでいくことができるのか。このマネジメントプロセスのつなぎ方にこそ、環境問題を理解・解決する手掛かりがあるのではないでしょうか。
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