所属部署 サービス・イノベーショングループ
氏名:古橋智保
顧客価値の範囲を広くとらえ、顧客が商品・サービスを購入し、利用する際の体験を意識的にデザインすることで、総合的な顧客価値の提供を図るマーケティング手法を経験価値マーケティングと呼びます。この考え方はコロンビア・ビジネススクールのバーンド・H・シュミット教授などが提唱しています。経験価値には、SENSE(感覚的価値)、FEEL(情緒的価値)、THINK(創造的・認知的価値)、ACT(肉体行動、ライフスタイルに関わる価値)、RELATE(準拠集団への帰属価値)などの要素が含まれます。
顧客が商品・サービスのどこに価値を見いだして、購入し、利用するのか、ということについての考え方は歴史的に変化してきました。かつては顧客が求めるものは、ニーズを充足するための商品の機能であり、それらがもたらす便益(ベネフィット)である、という考えが主流でした。したがって、マーケティング活動も顧客が何を必要としているかを把握し、それをどのように満たすか、という点にフォーカスが置かれていました。
しかし次第に、実際の顧客の価値判断や購買意思決定は、ニーズを充足できればよい、というような単純なものではなく、感覚、情緒などその他の種々の要因に左右される部分が大きいと考えられるようになりました。
その結果、商品の外観のデザインや高級感の演出などにも、大きな注意が払われるようになりました。またサービスビジネスでは、ニーズが充足できたという結果価値だけでなく、経過価値(プロセスの価値)も重要である、とされ、サービスの利用プロセスにおける満足という観点が強調されるようになりました。
顧客価値が多様な要素を含み、また結果の満足だけでなく購買・利用プロセスにおける経過の満足も重要な要素である、ということ自体は、特に新たな考え方ではありません。しかし多様な価値要素を顧客の経験という観点から総合的にデザインし、実際の商品・サービスの開発を行うためのマーケティングの方法論を構築しようとするところに経験価値マーケティングの新しさがあるといえるでしょう。
現在日立総研では、「サービスイノベーション」というコンセプトに基づき、人間の感情、判断などの感覚的・知的活動が大きな要素を占めるために、これまで定型化・合理化が困難であったビジネス活動のサイエンス化について検討を行っておりますが、経験価値マーケティングも、人間の感覚や情緒など明確化が難しい価値要素を含む総合的な顧客満足を追求するという点において、つながりのある分野だと考えています。
このように、今後のビジネス研究では、従来取り扱いが難しかった人間の感覚的・知的な活動をどう取り扱い可能にするか、ということが焦点の一つになっていくでしょう。
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