所属部署 グローバル新市場クラスタ
氏名:黒田知幸
国連による気候変動枠組み条約によれば、「気候変動」とは、「地球の大気の組成を変化させる人間活動に直接または間接的に起因する気候の変化であって、比較可能な時期において観測される気候の自然な変動に対して追加的に生ずるもの」と定義されている。また「気候変動の悪影響」とは、「気候変動に起因する自然環境または生物相の変化であって、自然および管理された生態系の構成、回復力もしくは生産力、社会および経済の機能または人の健康および福祉に対し著しく有害な影響を及ぼすもの」とされている。
現在、「気候変動」は、「地球温暖化」と同義として扱われていることが多い。このため「気候変動」から連想される事象は一般的に「温暖化」となる。「急激な温暖化」を誘引した原因として人為的要因が挙げられ、解決に向けた京都議定書に代表されるCO2削減策への取り組みは広く知られている。確かに、CO2の増加に伴う温暖化は、20世紀が残した負の遺産として静かにかつ確実に進行している。しかしながら「地球温暖化」だけでは地球が、そして人類が瀕死の状態になることはない。我々は「地球温暖化」が気候変動のはじまりであり、その一部に過ぎないことを、まずは認識しなければならない。「気候変動」という事象は、「地球温暖化」から「地球寒冷化」までを一連のサイクルとして、地球史上において何度も繰り返し生じてきた。10万年オーダーの気候変動サイクルの中に、数千年オーダーの気候変動サイクルが存在している。
古気候研究分野では、過去の気象環境の復元とその気候変動サイクルの究明に取り組んでいる。この研究結果は、「地球」という惑星が有する一つの自然サイクルの特徴として、「温暖化」の後には必ず「寒冷化」がくるという事実を、多くの事例研究に基づいて証明している。
現在、我々は氷河時代の中の「間氷期」に住んでいる。この「間氷期」は、奇跡と呼んでも良いほど、「気温の変動が少ない、非常に安定した気候」を維持してきた。人類社会の理想・理念、常識、生活様式は、この安定した環境の中で育まれ、これまで人類は繁栄(生存)してきた。 しかしながら、2005年にFAO(国連食糧農業機関)が「気候変動が開発途上国の農地を減少させ、世界の飢餓人口を増やす恐れがある」と指摘したように、20世紀後半から、開発途上国では乾燥に伴う水不足の問題、砂漠化の問題が深刻化の一途をたどっている。また65の途上国では、農業総生産の20%弱にあたる生産能力が失われるという報告もある。安定していたはずのシステムにほころびが生じてきたようだ。この「気候変動」は、何も「温暖化」のみを指しているわけではなく、「気候システム」全体の変動を指している。気候変動の影響として問題となるのは、年平均気温がどれだけ上下したかということではなく、むしろ「気候システム」に生じたギャップの大きさである。過去の事例研究の結果では、気候変動が決して遷移的(プログレッシブ)に生じるのではなく、ある時点(極限点)を境に急激な変動として顕在化することを示唆している。温暖化に備えていた人類が、急激な寒冷化に直面する場面を考えていただきたい。この事象が人類へ及ぼす影響は、予想以上に大きそうである。
我々の基本的な問題意識はここにある。
「地球の大気が劣化している」…これは覆ることのない事実である。…
「温暖化の後に寒冷化が来る」…これは紛れもない事実である。…
日立総研は、上記問題意識に基づき、「気候変動が東アジア地域の経済システムに及ぼす影響」を重点研究と位置づけ、研究活動を展開している。
機関誌「日立総研」、経済予測などの定期刊行物をはじめ、研究活動に基づくレポート、インタビュー、コラムなどの最新情報をお届けします。
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