社長 溝口健一郎のコラム
2024年は「選挙イヤー」であった。多くの主要国で国民が選挙を通じて現状への不満を表明し、政権与党が議席を失うこととなった。結果として、多くの新しい政権が誕生、あるいは議席を失った政権与党は軌道修正を余儀なくされている。これを受けて2025年は「政策転換イヤー」となる。悩ましいのは、政権交代によって各国の政策や各国間の関係が変化することは分かっているものの、それがどのように、どの程度、変化するのかは分からないという点だ。つまりKnown Unknownsが大きく、かつ多様になっているのである。第2次トランプ政権、AIとエネルギーの需給バランス、世界政治の分極化、中東情勢、サプライチェーンの混乱、気候変動被害の拡大などがKnown Unknownsの例であろう。
加えて、まったくその発生が事前には予測できないUnknown Unknownsが生じる可能性も高まり続けているように思える。パンデミック、戦争、大規模テロ、社会の突然の混乱・衰退など誰も予想していなかったことが2000年以降には起きている。地政学、環境、社会、テクノロジーといったマクロ要因が入れ子構造に複雑化し、将来の問題の発生を見通すことが極めて困難になっていることがその背景にある。リスクに不意打ちされる、あるいは絶えずリスクに後れを取っているのが世界の今なのかもしれない。
さまざまな機関が2025年のリスク見通しを発表している。1年のことであってもUnknownsを正確に予言することは難しいが、どのようなリスクと機会のシナリオがあり得るのかを考えてみることは無駄ではないであろう。その思考実験からスタートすることで、計画とアクションを決定でき、そこからの修正と飛躍も可能になる。日立総研で議論した今年の十大リスクは以下である。
これらのリスクに共通する背景として、急速に進化を続けるテクノロジーとそれを可能にするプラットフォームである地球環境との関係において、相生よりも相克(注1)が優先してしまっていること、また、米中対立を契機として正当化され始めた自国優先主義がドミノ倒しのように世界に蔓延(まんえん)してきていることがある。安定よりも変化、将来よりも現在、全体よりも個を選好しているようである。これが、先々の調和を実現するためのステップなのか、コントロール困難なカオスに向かうのかは判断が難しい。
ただ、多種多様なリスクは多種多様な機会でもある。Known Unknownsの拡大は選択肢の拡大でもある。これらのリスク=チャレンジにどう応えるかが政治家の、経営者の、リーダーの、腕の見せ所であろう。課題が出てきたから解決策を見つけようとするのではなく、どうやら次はこういうテーマが来るな、とシナリオを描いて行動することが有効だ。新たな課題が出現し、その分析をして解決策を見つけていくということも大事ではあるが、このステップでは当然問題はいつもわれわれの先を行っていることになる。リスクに後れを取るとそのリスクはダメージとして顕在化してしまう。武道で言う「先の先」を取っていくことで十大リスクも十大オポチュニティとなる。
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