国民電子私書箱(仮称)
所属部署:社会・生活グループ
氏名:丸山 喬生
「国民電子私書箱(仮称)」とは
「国民電子私書箱(仮称)」は、引越し・退職・出産などライフイベントにかかわる個人情報の入手・管理を希望する国民や企業を対象に、公的機関などが提供するネット上の専用口座です。このネット上の専用口座を通して、社会保障分野のみならず、幅広い分野でのワンストップの行政サービスが提供されます。
「国民電子私書箱(仮称)」が注目される理由
現在の行政サービスの手続きは、情報を紙で扱うことが原則であり、さまざまな種類の情報の連携が、行政機関間や行政機関と企業の間で取りにくくなっています。このことが、国民がライフイベントにかかわる個人情報を入手し、管理する場合に、何カ所もの行政機関や公益事業者を直接訪問する必要が生じる一因となっています。
内閣の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)は、2009年4月に「デジタル新時代に向けた新たな戦略〜三か年緊急プラン〜」を決定しました。このプランでは、2015年に目指すべき社会イメージとして、「すべての国民・企業・NPO・地域社会が元気になり、夢を実現できるデジタル成長社会」や「進化し続ける高品質で無駄のないデジタル高度社会」を掲げています。このプランにおいて「国民電子私書箱(仮称)」の整備は、国民や企業と行政をつなぐ新しい行政サービスのあり方として、2009年度中に基本構想をまとめるものであると盛り込まれています。
「国民電子私書箱(仮称)」の仕組みの概要
「国民電子私書箱(仮称)」では、行政情報共同支援センター(仮称)を設置し、行政情報に関する情報を集約し、ユーザーである国民がインターネットを介して接続する形態を取ります。
- 「国民電子私書箱(仮称)」利用選択権は国民が保持
国民自らが「国民電子私書箱(仮称)」を使うか使わないか、どのようなサービスを使うかを選ぶことができます。また、「国民電子私書箱(仮称)」は行政機関もアクセス可能であり、同サービスを使わない選択をした人、例えば、IT機器の使用に不慣れな人やネット上での手続きに不安を感じる人については、希望により、行政機関の窓口でも幅広い分野でのワンストップの行政サービスを受けることができます。
- 国民電子私書箱(仮称)ポータルを介してサービスを利用
国民電子私書箱(仮称)ポータルは、政府機関などや民間の事業者が運営するホームページです。テレビ、パソコン、携帯電話、キオスク端末での利用が可能です。提供するサービスは、(1)ライフイベントに関する手続きのワンストップサービス、(2)利用者が受けられる行政サービスの参照、(3)利用者が過去に手続きした履歴の参照、(4)各情報保有機関が管理する利用者に関する情報の参照、(5)個人情報に関するアクセス履歴の参照などがあります。
- 情報提供者は行政機関、公益事業者
ライフイベントに関する情報の提供者は、行政機関やガスや電気などの公益事業者です。引っ越しでは、転出入先の自治体だけでなく、ガスや電気などの公益事業者への手続きも可能になります。
図 「国民電子私書箱(仮称)」の仕組みの概要
各種資料より(総研)作成
「国民電子私書箱(仮称)」のメリット
「国民電子私書箱(仮称)」の整備により、紙ベースの申請手続きなどの煩わしさが解消されるのみならず、各行政サービスを連携させることで、デジタル技術を活用したワンストップの行政サービスやプッシュ型の行政サービスの提供が実現します。国民は確実かつ簡単に必要な行政サービスを受けることができ、企業や行政は事務コストを削減できます。
- 国民にとってのメリット
- 行政機関などが保有する個人情報を、いつでも簡単に入手、確認することができます(行政サービス・内容の情報へのアクセシビリティ向上)。
- 引っ越し、退職、出産などのライフイベントで必要な手続きが、1回で完了します。また、行政手続きに必要な証明書(住民票など)の添付が不要になります(行政サービスのワンストップ化)。
- 各種の給付の情報が、役所から国民一人一人に連絡されるため、給付の存在を知らないことによる未受給を防ぐことができます(プッシュ型の行政サービスの実現)。
- 企業や行政のメリット
- 従業員の源泉徴収税の納付、年金など雇用関係の申請を電子的に行政情報支援センター(仮称)を通して送受信することで手続きを完了できるため、郵送事務の減少など事務処理の軽減によるコスト削減が可能になります。
整備上の課題−安心して利用できる環境の整備−
「国民電子私書箱(仮称)」の運営には、政府機関や民間の事業者がかかわり、法的に個人情報の漏えいを防ぐ対策が取られます。しかし、「国民電子私書箱(仮称)」は、個人情報を扱うシステムであるため、技術面でもセキュリティや個人情報保護に万全の対策を講じる必要があります。整備をする上で、(1)最新の技術(ICカードによる認証や生体認証など)による高度なセキュリティの確保、(2)システムの運用監視や利用者からの苦情対応のための仕組み(第三者機関など)の設置、(3)利用者が、利用者の個人情報がいつ利用されたかを確認できる仕組み、の3点をIT戦略本部などで検討しています。
これまでも電子申請の導入などにより、電子政府の整備が政府によって推進されてきました。しかし、申請する方法が窓口からネットに変わっただけで、結局は、行政機関ごとに手続きをする必要があり、電子申請を利用するメリットは大きいものではありませんでした。また、電子申請できる行政手続きの多くは、一般の国民にとっては利用機会の少ないものであったため、電子政府の活用が進んでいない状況にあります。
「国民電子私書箱(仮称)」の基本構想の決定はこれからですが、国民の視点に立ち、ライフイベントに対応したワンストップ型やプッシュ型の行政サービスを提供することが重要です。「国民電子私書箱(仮称)」の成否は、国民が「うれしさを感じる」本当の電子政府の実現性を問う試金石となります。
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